ピアノ調律は美しい音色を保つ上で欠かすことのできないメンテナンスであり、張ってある弦の調整や弦を叩くハンマーをほぐすことにより、音の調整を行います。
調律師は調整を行いながら些細な音の変化を聞き取り、音を合わせていくのですがこの際に基準となる音律が「平均律」です。
平均律で調整したピアノは音にうねりがでやすく、純正律のような調和した音は奏でられません。
ではなぜ、ピアノの調律で純正律ではなく平均律が用いられるのでしょうか。
今回はピアノ調律で主流となっている平均律について、わかりやすく詳しく解説していきます。
・ピアノ調律で平均律が用いられるようになった背景
・平均律と純正律の特徴について
・平均律と純正律それぞれでピアノ調律を依頼する方法
ピアノ調律で平均律が使用されることになった背景について
冒頭で説明した通り、純正律は音が調和しやすく美しい和音が奏でられる一方で、平均律は音にうねりが出やすいと言えます。
うねりとは音が波をうつように響く現象で、ピアノで音を出した後には「ウァン・ウァン・ウァン」と音が響きます。
動画ではピアノの音の違いがわかりにくいため、うねりをわかりやすく表した動画をご覧ください。
この平均律ですが、ずっと前からピアノの調律で用いられてきたわけではありません。
ここではピアノ調律で平均律が使用されるようになった背景や、純正律との具体的な違いについて解説していきます。
19世紀後半までの音楽は純正律が使用されていた
ピアノは楽器として誕生して約300年の歴史があり、昔から定期的な音の調整が行われていました。
ピアノが誕生して以来、音律の調整で用いられてきたのはうねりの少ない純正律です。
しかしながら純正律にはデメリットがあり、一つの調では美しい音が奏でられる一方で、転調すると急に音が悪くなってしまうのです。
そのため、かの有名なピアニストであるショパンは、どの曲でも美しい音で演奏するために各調で調律したピアノを4~5台も用意していました。
ピアノの調律は2時間前後かかるため、1台のピアノを各調に合わせるのは現実的ではありません。
そこで純正律の代わりとなったのが平均律です。
平均律は純正律ほどの美しい音色は奏でられない一方で、どの調であっても少しズレている程度であるため、さまざまな音律の曲に対応できます。
このことから19世紀後半ごろからは、平均律による調律が主流へと変わっていきました。
現在調律で用いられている平均律は「12平均律」と呼ばれています。
平均律と純正律の違いとは?
平均律と純正律の特徴は、うねりの違いであることを解説してきましたが、わかりやすくするために音の高さを数字(Hz)に表すと以下の通りとなります。
ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | |
純正律 | 264Hz | 297Hz | 330Hz | 352Hz | 396Hz | 440Hz | 495Hz | 528Hz |
平均律 | 261Hz | 293Hz | 329Hz | 349Hz | 391Hz | 440Hz | 493Hz | 523Hz |
大きな差はないものの、ちょっとした音の差があることが分かります。
なぜこのような差がでるのかというと、各音の調整が以下のように行われるからです。
- 純正律:周波数比が単純な整数比の音で作られている
- 12平均律:1オクターブの音程を12等分した音
12平均律の場合は均等に12等分されていることから、オクターブが上がっても音程に大きなズレが出ることはありません。
平均律とはどのような音律?
平均律と純正律の違いを解説してきましたが、ここでは更に詳しく平均律について解説していきます。
音の調整方法や平均律のメリット・デメリットについて理解することで、より音楽について理解できるでしょう。
平均律の音の調整方法
12平均律は1オクターブを12等分した音律であり、より詳しく説明すると各音に「1.0594630…」をかけると必ず半音上の音になります。※先ほど紹介したHz数は小数点を省いています。
ちなみに音に関する言葉で「セント」という言葉を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
このセントとは音程を測定する単位であり、12平均律で分けられた半音の間隔は100セントとなります。
平均律のメリット
平均律のメリットは音の差が均等になっているため、どの調であっても大きく音がズレることがありません。
そのため、響きに若干のうねりは出てしまうものの、全ての調に対応可能です。
調の異なる曲を弾くたびにピアノを調律する手間を省けるのが、一番のメリットと言えるでしょう。
平均律のデメリット
平均律のデメリットは、どの調であったとしても調和のとれた美しい音が奏でられないことです。
平均律の音の響きには、必ず若干のうねりが発生してしまいます。
平均律が生まれた頃の音楽家であるモーツァルトは、このうねりに納得できず「自分の曲を平均律で演奏するのを禁止する」と言い残している逸話もあります。
純正律とはどのような音律?
次は19世紀後半まで多く用いられていた純正律について、音の調整方法やメリット・デメリットについて解説していきます。
純正律の音の調整方法
純正律は周波数比が単純な整数比で構成されており、周波数を微調整することで純正な音程を増やしています。
各音の周波数比は以下の通りです。
音名 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド |
国際式表記 | C4 | D4 | E4 | F4 | G4 | A4 | B4 | C5 |
平均律C4との周波数比 | 1:1 | 8:9 | 4:5 | 3:4 | 2:3 | 3:5 | 8:15 | 1:2 |
一定の調の中であれば、音に大きなズレが発生することはなく、ド・ミ・ソといった主要三和音は周波数比が4:5:6で、音の響きにうなりが生じません。
純正律のメリット
純正律のメリットは前述した通り、1つの調に対し完璧に音を合わせられるため、美しいハーモニーが奏でられます。
純正律のデメリット
純正律のデメリットは転調ができず、あらゆる曲をキレイに演奏することができないことです。
例えば純正律でE調に合わせていたピアノでC調の曲を弾くと、大きく音程がズレてしまい響きが悪くなります。
平均律と純正律それぞれでピアノを調律したい場合はどうしたらいい?
使用しているピアノを純正律や平均律に調整する方法は「ピアノ調律」による作業となります。
現在は平均律が主流ですが、中には純正律のピアノを弾いてみたいと思う人もいるでしょう。
ここでは、ピアノ調律で音の調整を指定したい場合、どうしたらいいのかを解説していきます。
ピアノ調律を平均律で依頼したい場合
現在主流となっているのが平均律であるため、依頼する際に「平均律でお願いします」とお願いする必要はありません。
いつも通り調律を依頼すれば、依頼先や調律師に関係なく音は平均律で調整されます。
ピアノ調律を純正律で依頼したい場合
前述した通り、今では平均律が調律の基本となっているため、純正律を希望する場合には事前に調律師に問い合わせが必要です。
純正律での調律は非常に稀であるため、なるべく経験豊富な調律師への依頼をおすすめします。
平均律に関するよくある質問
最後は平均律に関するよくある質問3つについて答えていきます。
- 12平均律はどのような楽器に使用されている?
- 平均律ではなく純正律が使用される楽器や演奏は?
- ピアノの調律曲線とは
平均律と純正律の上手な活用方法に関する内容ですので、理解しておくようにしましょう。
12平均律はどのような楽器に用いられている?
12平均律は演奏中に音程の調整ができない楽器に用いられます。
具体的にはピアノなどの鍵盤楽器や鉄琴・木琴などの打楽器、ギターのようなフレットのある弦楽器となります。
平均律ではなく純正律が用いられる楽器や演奏は?
純正律が用いられるのはトランペットやフレットのないバイオリンなど、演奏しながら音程の微調整ができるものとなります。
合唱も音程の調整が可能であるため、純正律が用いられます。
ピアノの調律曲線とは?
ピアノの調律を依頼した場合、調律師が微細な音の調整を行い美しい音色へと戻してくれますが、具体的にどこがどう変わったのか分からないという人がほとんどでしょう。
作業後にはカルテのようなものを作成し、説明もしてもらえるのですが、内容が専門的なものであり一目で理解するのは難しいと言えます。
そこで用いられるのが「ピアノ調律曲線」です。
ピアノの調律曲線とは、調律が終わったピアノの音程をグラフ化したもので、目で見てわかるようになっています。
調律師の中には、専用のチューナーで調律曲線を確認するプランを設けている人もいます。
この他ではピアノ用チューナーを用いて、セルフで紙に記入してピアノ調律曲線を確認する方法もあります。
ちなみに実際の調律では、正しい理論値よりも低音部は低く、高音部は高く調律されることがほとんどです。
その理由としては、人間の耳が正しい高い音は低く聞こえ、正しい低い音は高く聞こえてしまう特性を持っているからです。
ピアノの音をより美しく聞こえるようにするために、高い音はより高く、低い音はより低くわざと設定されます。
この音の設定に明確な基準はなく、調律師の感性によって調整が行われます。
まとめ
今回はピアノ調律で主流となっている平均律について解説してきました。
平均律は純正律と比べて響きが悪く、若干のうねりが全ての音に出てしまう一方で、転調しても大きくずれるようなことはありません。
転調する度に調律を行う必要がないため、19世紀後半からピアノ調律に用いられるようになりました。
今では平均律が主流ですが、調律師に依頼すれば純正律に調律してもらうことも可能です。
また、純正律は完全になくなったわけではなく、音程の微調整が可能であるトランペットやバイオリンでは今でも用いられています。
実際に純正律と平均律で調律したピアノを用いて、音の違いを解説した動画がありますので、気になる方はぜひご覧ください。
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